TEN NIGHTS' DREAMS

具象的抽象表現の研究

2020

文字は複数の側面を持つ。 音のかたまりであり、意味を持つ記号であり、ときに象形であり、あるいはそれらすべてを勘案しない洗練された図形でもある。
日本の美術史上、文字はそれらのさまざまな性質による審美性、文学性に注目され、染織や工芸において絵画的表現と同等に代替されうる表現として用いられてきた。
絵画的表現の中の文字たちは、紙と墨の四角い世界を離れ、柔軟に構成され、型破りに変形され、それぞれが強烈な個性を放つ。本作品は、そうした「絵の置き換えとしての文字の利用」という側面の面白さに焦点を当てたものである。
江戸時代の染織にみられる文字模様や図案を、当時のデザインカタログである雛形本をもとに収集・分析し、10パターンのデザイン類型を編み出した。それらを土台として、夏目漱石の小説『夢十夜』の各章を文字による10枚組のグラフィックに仕上げた。
文字であらわすという具象でありながら、文字に置き換えるという抽象。いくつものレイヤーを生み出す文字の魅力が、ここにある。

図案参照元
御ひいなかた上・下(1667)
小袖御ひいなかた(1677)
當風御ひいなかた(1684)
諸国御ひいなかた(1686)
源氏ひなかた(1687)
色紙御雛形(1689)