同じ日本語で書かれているはずが、昔の書跡や書物を読むことは容易ではない。そして、文字のなりたちや理由を類推すると、そこに解読の兆しが生じる。
本作品は変体仮名を電子フォント風にデザイン化した、五十音のタイプフェイスで構成される。タイプフェイスはそれぞれが現代の「ひらがな」「漢字」双方の要素を持っており、この先に形成されるひらがな、この前にあった漢字、両方を理解しやすく、また、類推しやすい形状になるよう制作した。
付随して制作した長文の組み見本もまた、類推を手助けする意図によるものである。単体では見当もつかない文字が、文章の中で音を補完しやすくなり、そこから字形への驚きや考察が深まるのではないか。音はひらがなだが字体は漢字を色濃く残す、まさに「変化途上」の文字の独特性をより現代的に親しみやすいかたちで表現した。
本来、文字は自由なものである。
変体仮名、現代ではひらがなの異体字として扱われるそれは、ひらがなの形成にあたって、漢字から音が取り出され、その音に対応する文字を作るために漢字が崩される、あるいは分解される途上のかたちをしている。
我々が現代で学び、用いるひらがなは、近代教育が整備されたもとで統一して教育するべく定められたものにすぎない。もともと「正しいひらがな」などというものは存在しなかったのだ。思い思いに文字を崩し、そこに音節をあてる、自由な表音文字表現に、ことばという文化の柔軟さを感じることはできないだろうか。
STILL IN PROGRESS.
2016